The Secret Admirer Love Letter in the Red Mail Post Box (Part 4)
赤い郵便ポストの足元で、アイラは一通の手紙を見つける。 それは、正体不明の誰かから自分へと宛てられた、秘密のラブレターだった。 秘められた想いと淡い恋心が交差する、心温まる学園ショートストーリー。


赤い郵便ポストの中の手紙
第33章:下駄箱の中の手紙
終業を告げるチャイムが鳴り響いた。
生徒たちが一斉に立ち上がり、笑い声を交わしながらカバンをまとめる。放課後の喧騒が、ゆっくりと教室を満たしていく。
アイラは静かに教室を後にした。
長い廊下を歩き、下駄箱の前で足を止める。自分の下駄箱を開けると、靴の傍らに一通の封筒が置かれていた。
白く、清潔な封筒。
差出人の名はない。
心臓が、トクンと跳ねた。
アイラは壊れ物を扱うように、そっとそれを手に取った。表には、ただ一行。
『放課後、読んでください』
アイラの指先がかすかに震えた。
「この手紙……」
予感はあった。これは、ヨシからのものではない。ヨシはもう、自分の「声」で想いを伝えてくれた。
この手紙から伝わってくる体温は、もっと別のものだ。
静かで、慎重で、どこまでも真っ直ぐな。
第34章:階段に座って
アイラはゆっくりと下駄箱を閉じた。
すぐには靴を履き替えず、数歩歩いて昇降口の階段に腰を下ろした。
廊下からはもう、ほとんど人影が消えている。窓からは、柔らかな夕日が差し込んでいた。
アイラは膝を抱えるようにして座り、両手で手紙を包み込んだ。鼓動が速い。
深く息を吸い込み、ゆっくりと封を切った。
第35章:勇気で綴られた言葉
中には、丁寧に折られた便箋が一枚入っていた。
整った筆跡。慎重に引かれた線の跡。
アイラはその文字を、すぐに思い出した。
息が止まる。彼女は食い入るように読み始めた。
アイラへ
今日、君の言葉を聞いた。
「好きな人がいる」と言っていたね。
それが自分なのかどうか、僕にはわからなかった。
でも、気づいたんだ。
このまま黙っていたら、僕はチャンスを失ってしまう。
僕は、待ちすぎてしまった。
今までの当たり前の毎日が変わってしまうのが、怖かったんだ。
でも、もう隠したくない。
僕自身の声で、君に伝えたい。
放課後、学校の裏にある古い木の下で待っています。
日が沈む頃に。
ハルト
アイラの瞳に、じわりと涙がこみ上げた。
彼は自分の名前を、最後に記していた。
もう隠しごとも、秘密もない。
アイラは震える手で、大切に手紙を折り畳んだ。
第36章:階段での静寂
アイラはしばらく、階段に座ったままだった。
手の中の手紙を見つめる。
胸がいっぱいだった。怖くて、けれど温かかった。
あらゆる感情が、一度に押し寄せてくる。
「……あなただったんだね」
彼女は、ヨシが見せた勇気を思い出した。彼を心から尊敬した。
そして今、ハルトもまた、自分の勇気を見つけ出したのだ。
アイラはゆっくりと立ち上がった。
靴を履き替える。その心には、もう迷いはなかった。
第37章:手紙のない場所
アイラが学校の裏手に回ったとき、太陽は低く傾いていた。
澄んだ空気が辺りを包んでいる。ここは、とても静かだった。
赤いポストも、手紙もない。
ただ大きな一本の木と、風の音だけが聞こえる。
そこには、先客がいた。
木の下に立つ、ハルトの姿。アイラを見つけると、彼は背筋をすっと伸ばした。
「……来てくれたんだ」と、彼が静かに言った。
アイラは頷いた。
「うん、来たよ」
第38章:ようやく交わされた言葉
二人は向き合って立った。
しばらくの間、どちらも言葉を発しなかった。
やがて、ハルトが深く息を吐いた。
「もっと早く言うべきだった。……怖かったんだ」
アイラは黙って耳を傾ける。
「あの手紙が届くずっと前から、君が好きだった」
アイラの目から、涙がこぼれ落ちた。
「私も……私も、ずっと好きだったよ。でも、どう言えばいいかわからなくて」
ハルトが優しく微笑んだ。
「お互い、臆病だったんだね」
二人は、小さく笑い合った。
第39章:もう、隠さない
ハルトがアイラを真っ直ぐに見つめる。
「アイラ。好きだよ」
淀みのない、簡潔で、誠実な言葉。
アイラは涙を拭い、満面の笑みを浮かべた。
「私も。大好きだよ」
その声は震えていたけれど、誰よりも強かった。
第40章:最初の手紙への敬意
帰り道を歩きながら、アイラがぽつりと言った。
「最初の手紙……ヨシの手紙も、すごく勇気があるものだったね」
ハルトは深く頷く。
「ヨシは正直だった。あいつのことは、尊敬してるよ」
「私も同じ」と、アイラも同意した。
第41章:ヨシの静かな強さ
翌日、学校でヨシは二人を一緒に見かけた。
彼は一瞬だけ立ち止まり、それから笑った。
心の底からの、本当の笑顔だった。
「なんだ、上手くいったのかよ!」と、彼は大きな声で言った。
アイラは小さく頭を下げた。
「……ありがとう、ヨシ」
ヨシはひらひらと手を振る。
「あの手紙に書いたことは全部本気だったからな。後悔なんてしてねーよ」
そう言って、彼は歩き去っていった。
胸の奥にはまだ痛みが残っていたけれど、その心は不思議と軽かった。
第42章:冬武の穏やかな微笑み
冬武もまた、二人の様子に気づいていた。
彼は眼鏡の縁をそっと直す。
「なるほど。正直であることを選んだんですね」
彼が静かに言うと、アイラは幸せそうに微笑んだ。
第43章:新しい帰り道
放課後、アイラは家路についた。
隣にはハルトがいる。
二人の肩が、かすかに触れ合う。それは偶然ではなく、二人が選んだ距離だった。
第44章:二通の手紙、一つの心
その夜、アイラは小さな小箱の中に、二通の手紙を納めた。
ヨシからの手紙。
ハルトからの手紙。
形の違う二つの勇気。
彼女は優しく、蓋を閉じた。
第45章:赤いポストは今日もそこに
道端には、あの日と同じように赤い郵便ポストが立っていた。
鮮やかで、静かな佇まい。
それはアイラに、最初の勇気を思い出させた。
綴る勇気。そして、語りかける勇気。
結びの言葉
書かなければ伝わらない想いがある。
話さなければ届かない言葉がある。
どちらも、等しく勇気が必要だ。
勇気が誠実さと出会ったとき、
静かな恋が、ようやくその産声を上げる。
――終わり――