The Secret Admirer Love Letter in the Red Mail Post Box (Part 3)

赤い郵便ポストの足元で、アイラは一通の手紙を見つける。 それは、正体不明の誰かから自分へと宛てられた、秘密のラブレターだった。 秘められた想いと淡い恋心が交差する、心温まる学園ショートストーリー。

赤い郵便ポストの中の手紙

第22章:朝の登校路

朝の空気は、肌を刺すように冷たかった。

アイラはいつものように、ヒカリと一緒に学校へと向かう。空は淡く白み、道はまだ静まり返っていた。言葉を交わすたび、二人の吐息が白く染まる。

「また黙り込んじゃって」と、ヒカリが言った。

アイラは力なく、少しだけ微笑む。

「……大丈夫だよ」

そう答えたものの、胸のざわつきは収まりそうになかった。

そのとき、後ろから聞き慣れた声が響いた。

「おはよー!」

振り返ると、そこにいたのはヨシだった。

アイラとヨシは家が隣同士ということもあり、時々こうして登校時間が重なる。ヨシはいつもと変わらない満面の笑みで、大きく手を振った。

「おはよう、ヨシ」とヒカリ。

アイラも小さく頷く。「おはよう」

三人は並んで歩き出した。ヨシは宿題や先生の愚痴を並べては、おどけて場を盛り上げる。けれど、時折。ほんの一瞬だけ、彼の視線がアイラの方へ動く。そしてすぐに、何事もなかったかのように逸らされる。

アイラは、その視線に気づいていた。

第23章:校門の先で

校門に辿り着くと、そこには一人の人影があった。

ハルトだ。

彼はポケットに手を入れ、静かに道を眺めていた。アイラたちの姿を見つけると、その表情がふっと和らぐ。

「おはよう」とハルトが言う。

「おー、おはよ!」ヨシが大きな声で返した。

アイラの心臓が、跳ねるように脈打つ。

校舎へと入る道すがら、ハルトは自然とアイラの隣を歩いた。肩が触れそうで触れない、絶妙な距離。

何か言いたい。けれど、言葉が喉の奥でつかえて出てこなかった。

第24章:一番乗りの教室

教室の引き戸を開けると、冬武(ふゆたけ)はもう席についていた。

いつもの光景だ。彼は几帳面に机を整え、入り口の横にある花瓶に水をやっていた。その動作はどこまでも穏やかで、丁寧だった。

「おはよう」

彼が礼儀正しく挨拶する。「おはよう」と皆が返す。

アイラは自分の席に座ったが、鼓動はどんどん速くなっていく。

ヨシ。ハルト。そして、冬武。

同じ空間に、三人が揃っている。

ヒカリは、アイラの指先がかすかに震えているのを見逃さなかった。

第25章:危うい冗談

授業が始まる直前、ヒカリがアイラに耳打ちした。

「あんまり眠れなかったでしょ?」

アイラが聞き返す。「えっ?」

ヒカリは意味深に微笑むと、突然、教室中に響くような大きな声で言った。

「まあ、無理もないよね。あんな素敵なラブレター、もらっちゃったんだもん」

一瞬にして、教室が静まり返った。

三人の少年の動きが、ピタリと止まる。

アイラは凍りついた。

「ヒ、ヒカリ……っ!」

ヨシは顔を背け、ハルトは驚いたように瞬きをする。冬武は一瞬だけ手を止め、何事もなかったかのようにまた花に水をやり始めた。

誰も、何も言わない。

教室の空気が、ずしりと重くなった。

第26章:授業開始

やがて他の生徒たちが登校し、教室は再び騒がしさを取り戻した。

チャイムが鳴り、教師が入ってくる。

「おはようございます」「おはようございます」

授業が始まった。ヨシは相変わらず騒がしく、冗談を飛ばしてはクラスを沸かせている。ハルトは静かに耳を傾け、冬武は真剣にノートを取っていた。

すべては「いつも通り」に見えた。

「――よし、ヨシ。この問題を黒板で解いてみろ」

先生の指名にクラスがどっと沸く。

「えーっ、先生、勘弁してくださいよ……」

ヨシはぼやきながら席を立ち、チョークを手にした。

第27章:筆跡

ヨシが黒板に答えを書き始めた瞬間、アイラは息をするのを忘れた。

その筆運び。文字の曲線。言葉と言葉の間の、絶妙な余白。

アイラの目が見開かれる。ヒカリが身を乗り出し、二人の視線がぶつかった。

確信した。

それは、あの手紙の文字と、瓜二つだった。

ヨシが席に戻ると、ヒカリが低く囁いた。

「休み時間、ちょっと話そうか」

ヨシの動きが止まる。

「……何だよ」

ヒカリはただ、静かに微笑んだ。

「わかってるでしょ?」

第28章:隠された真実

休み時間が訪れた。

生徒たちが立ち上がり、賑やかな会話が始まる。ハルトたちは食堂へ向かい、冬武は生徒会の仕事へと席を立った。

ヨシも彼らに続こうとしたが――。

「ちょっと待って、ラブレターの主(ぬし)さん」

ヒカリの声が、彼を呼び止めた。ヨシの顔から血の気が引く。

「何のことだよ……?」

ヒカリはアイラを見た。「アイラ」

アイラはゆっくりと立ち上がり、震える手でカバンから手紙を取り出した。それを、ヨシの前に差し出す。

ヨシは手紙を凝視し、やがてその顔からいつもの笑みが消えた。

第29章:窓辺の告白

ヨシはアイラを促し、窓際へと歩いた。柔らかな日差しが二人を包む。

ヒカリは少し離れた場所で、静かに見守っていた。

ヨシは決まり悪そうに頭をかいた。

「こんな形でバレるつもりじゃなかったんだけどな」

その声は、驚くほど低かった。

「俺、いつもおちゃらけてるだろ。……勇気がないんだよ」

アイラは何も言わず、彼の言葉を待った。

「アイラ、好きだよ。その手紙を書いたのは、俺だ」

アイラの胸が締め付けられる。自分はハルトが好きだ。ずっと前から。けれど、目の前のヨシの言葉は、痛いほどに真っ直ぐだった。

アイラがヒカリを見ると、彼女は力づけるように優しく微笑んだ。

第30章:逆転の結末

アイラは深く息を吸い込んだ。

「ヨシ……ありがとう」

ヨシの瞳に、わずかな希望が宿る。

「でも」アイラは言葉を続けた。「その気持ちには、応えられない」

ヨシは静かにうつむいた。

「私、別に好きな人がいるの」

沈黙が流れる。

やがて、ヨシは笑った。それは、いつもの道化た笑いではなく、心からの微笑みだった。

「……知ってたよ」

「え?」

「アイラがハルトをどう見てるか、ずっと見てたからさ」とヨシは言った。

「一度だけでいいから、正直になりたかったんだ」

彼は力なく笑い、軽く頭を下げた。

「聞いてくれて、ありがとな」

そう言い残すと、彼は背を向けて去っていった。

第31章:見えなかったもの

その頃、教室の外で――。

ハルトは立ち尽くしていた。忘れ物を取りに戻った彼は、すべてを聞いてしまったのだ。

ハルトの指先が震える。

(好きな人が、いる……?)

それが自分だとは、彼はまだ知らない。

第32章:静かな決意

予鈴が鳴り、休み時間が終わった。

生徒たちが笑いながら教室に戻ってくる。アイラも自分の席についたが、心臓はまだ早鐘を打っている。

ヨシも戻ってきた。

「休み時間終わるの早すぎだろ! いいところだったのに!」

彼は大きな声で笑い、クラスメイトたちもそれに続く。

いつもの笑い声。いつものヨシ。

けれどアイラは気づいてしまった。席に着いたヨシが、一瞬だけ窓の外を眺めたとき。

その表情から、笑みが完全に消えていたことに。

「席について」先生が入ってくる。

授業が始まった。ヨシは手を挙げ、冗談を言い、クラスを笑わせ続ける。誰も彼の心の痛みに気づかない。

それが彼にとって初めての告白であり、そして静かな終わりだった。

アイラは授業に集中しようとしたが、視線は自然とハルトの席へと向かう。

彼は、そこにいなかった。

不安に指を握りしめたそのとき、引き戸が開いた。

ハルトが入ってきた。彼は平然とした様子で席につき、アイラを見ようとはしなかった。怒っているのではない。

(彼女には好きな人がいる。……俺は、待ちすぎたんだ)

彼はノートを開いた。顔つきは冷静だが、その胸の内では、ある一つの決意が固まっていた。

授業が終わると、ハルトはすぐに荷物をまとめた。教室を出る直前、彼は足を止め、アイラの背中を一度だけ見つめた。

(もう、黙ってなんていられない)

ヨシがアイラの机を通り過ぎる。

「よっ。大丈夫か?」

アイラは頷いた。「うん」

「そっか」ヨシは笑って、囁くように付け加えた。

「……手紙に書いたこと、嘘じゃないからな」

アイラが顔を上げたときには、もう彼は他の誰かと笑い合っていた。

その日の放課後、ハルトは廊下で一人、真っさらな紙を広げていた。

おどけるためでも、隠すためでもない。

ただ一つの、真実を綴るために。

校舎の別の場所で、アイラは自分の下駄箱を開けた。

そこには――一通の封筒が入っていた。

差出人の名前はない。ただ表に、一行だけ書き添えられていた。

『放課後、読んでください』

アイラの心臓が跳ねる。

手紙を開けたとき、彼女は何を見つけるのか。

そして、この告白はすべてを変えることになるのか。